2025年9月号
なぜ僕は“会社員ランナー”ではなく、

プロランナーを選んだのか《後編》
社会人としての安定か、未知の挑戦か。社会人としての安定か、未知の挑戦か。その選択の末にプロランナーの道へと踏み出した吉田響。そしてプロの世界に飛び込んで初めて知った現実。走り続ける中で見えてきた光と影、そして未来へ描くビジョンを語ります。
《後編》現在の記事

《前編》ー前回の記事 前回の記事はこちら→
Chapter1
「安定か挑戦か―岐路に立った大学時代」
Chapter2
「プロになると決断した日」

Chapter3
「守られる場所を出て―プロの厳しさとやりがい」

―今年4月にプロとしてスタートしてから半年が経ちました。
まず、この半年で生活面やトレーニング面で大きく変わったことはありますか?

吉田響
意外と大きくは変わっていません。大学時代の「練習と授業の間にスケジュールを組む生活」と似たリズムで、今も同じように進めています。ただ、スポンサーとの打ち合わせや取材、イベントなど、競技に関してやることはそれなりに増えました。
あ、特に変わったのは、自炊するようになったことですね。』
株式会社サンベルクスとスポンサー契約の記者会見
株式会社サンベルクスとスポンサー契約の記者会見
―自炊は得意ですか?

吉田響
自炊は得意というわけではないですけど、全然苦じゃなくて、むしろ楽しいです。栄養面にも気を使っていて、自分で栄養素のことを調べたり、AIツールを使ってレシピを考えたりしています。今はチャットGPTなどでメニューの相談もできるので、とても便利ですね。』
―よく食べる好きなメニューは何ですか?

吉田響
豚汁やカレーが好きですし、魚料理もよく食べますし、シンプルな料理が好きですね。お肉より魚介類が好きで、特にエビは大好物で、最近はエビチリを初めて作りました(笑)。

栄養面では、たんぱく質やビタミン、ミネラルを意識して、野菜や果物も摂るようにしています。いまの合宿中も宿の売店で地元の新鮮なフルーツを売っていて、ぶどうだったりメロンだったり買って食べています。そのくらいフルーツは大好きです。』
―逆に控えている食べ物はありますか?

吉田響
揚げ物や甘いもの、特にトランス脂肪酸が入っているアイスクリームや生クリームを使った洋菓子は控えめにして、たまに自分へのご褒美として楽しむ程度です。和菓子では大福が好きで、学生時代は試合前によく食べていました。

乳製品も好きですが、お腹を壊しやすいので量を調整しています。焼き肉も同じでお腹がゆるくなることがあるので、脂の多いお肉は避け、赤身を選ぶようにしています。
―洗濯や掃除なども自分でされていますか?

吉田響
はい。学生時代から寮生活で同じように自分でやっていましたし、今も変わらず自分でやっています。
寮では2人で1部屋だったので、今は一人暮らしになって自由な時間が増えた分、生活全体は快適になりました(笑)。』
静岡県裾野市での公開練習
静岡県裾野市での公開練習
―リカバリー(休息・回復)を重視していると瀧川コーチから伺いましたが、睡眠の状況はいかがですか?

吉田響
夜はだいたい7時間くらい寝て、練習の合間には昼寝を2時間程度取るようにしています。
プロになってからは、「休息の質」をさらに意識するようになりました。アスリート向けのサプリメントを取り入れて、休息におすすめのアミノ酸が摂れるサプリメントを飲んでから寝ています。
おかげで夜はしっかり眠れ、翌朝にはリカバリーができている感覚があります。
―眠れないときはありますか?

吉田響
普段はよく寝られています。ただ、すごくきついポイント練習の日などは、アドレナリンが出すぎて寝つきが悪くなることもあります。練習で背中が張ってしまうときも、寝にくいですね。』
―眠れないときの対策は?

吉田響
対策は特にありません(笑)。布団の中でただひたすら我慢しています。

朝はあまり得意ではありませんが、昼寝で調整しています。朝練を行い、午後に昼寝で回復し、夕方から練習するのが普段のルーティンです。昼寝ができない日は、体が重く感じることもありますね。でもオフの日は8~9時間しっかり寝ています。』
―試合前夜でもぐっすり眠れるんですか?

吉田響
はい。試合前に緊張で眠れないということはありません。
―気持ちやモチベーションが上がらないときはどうしていますか?

吉田響
練習は気持ちに左右されることはほとんでありません。ルーティンになっているので、準備体操をしている間に自然と気持ちも入っていきます。』

(どんなときも自然体でいられるその姿勢が、吉田響の強さやタフさを物語っているように感じた。)
活動拠点の横浜エリアでの走行練習
活動拠点の横浜エリアでの走行練習
―少し視点を変えて、今のプロ生活では収入面はどのようにされていますか?

吉田響
瀧川コーチと会社を作って、競技面以外の経済面も管理してもらっていますが、我々の収入源は、スポンサーと個人の方からの寄付の2つです。
学生時代とは違い、合宿も遠征もすべて自己負担なので、その分、練習も休養も一つひとつ大切にしようという意識が強くなりました。』
―合宿はもちろん、大会に出場するのも、練習で必要な費用も、消耗品や栄養管理もプロアスリートは自費ですからね。
活動を積極的にするほど、比例してコストも必要になりますよね。節約なども意識しながらですか?

吉田響
『そうですね。その点、練習やケアに関する面は、内容も費用も瀧川コーチと相談しながらやっています。契約メーカーさんから提供いただいているものもありますが、実業団のようなチームではないので、基本は自己負担です。

寮生活(管理栄養士がついている)とは違って食事、捕食やサプリメントなどの食費も自分で管理する必要があります。栄養面にこだわりながら自炊し、足りないものを捕食やサプリメントで補うなど、1回の食事や1日の栄養面への意識も高まっています。

練習時の水分補給、栄養補給にもこだわってアスリート向けの飲料水であるハイポトニック飲料を飲んだり、持久系に有効なサプリメントを摂って、同じ練習でもより効果的なパフォーマンスアップを目指しています。』

瀧川コーチ
『響選手は、身体が繊細な面もあるので、リカバリーの費用は特に惜しまずに投資をしています。休養や体のメンテナンスは、腕が良いトレーナーさんのところに定期的に通っていて、蓄積した疲労を取ったり故障しないように気をつけています。

個人の合宿は長期ではなく短期間にして、合宿から帰るとトレーナーさんのところへ連れて行って治療やメンテナンスを受けてから、また翌週に合宿へというスケジュールを組んでいます。

チームであればトレーナーが帯同することもあるのですが、それはさすがに高くつくので費用を抑えることも考慮しながらこまめに通院するやり方にしています。』

(使うところは使って抑えるところは抑える、投資と節約をうまく両立されているんですね。)

吉田響
『今の自分は、プロランナーとして競技に専念し、結果を出すことが最も大事だと思っています。結果をしっかり出すことでスポンサーやサポーターの皆さんに恩返しになるでしょうし、やはり選手として強くなることで自然と生活も安定していく。そう考えて、日々の練習も生活管理も一つひとつ丁寧に取り組んでいます。』
―プロとして活動してきた中で、精神的な面で変化はありましたか

吉田響
『先日、プロランナーの石部さんと信櫻空さんと合同合宿を行いました。一緒に走ったり話したりする中で、すごく刺激を受けました。皆さんハングリー精神が強く、練習から絶対に勝つという気持ちを肌で感じました。

こうした経験を通して、結果への責任感やプレッシャーも強く感じます。プロは結果がすべてですし、スポンサーや支援者の方々に結果で応えなければならないという意識も、一層強くなりました。

自分は瀧川コーチのサポートがありますが、多くのプロランナーは身ひとつで活動しています。そのため、宿での挨拶の丁寧さや、日々の所作、競技に取り組む姿勢など、細かい部分からも学ぶことが多いです。自分もさらに頑張ろうと思います。』

石部夏希:
25歳・プロランナー。大学駅伝を経て実業団から独立し、2025年春にプロ転向。2戦目の2025年ふくい桜マラソンで2時間17分25秒(2位)をマークし、一気に注目を集める。堅実な走りと挑戦心を武器に、世界を見据える新星。

信櫻空:
23歳・プロランナー。高校卒業後に実業団(パナソニック)で活躍後、2025年にプロ転向。スピードと持久力を兼ね備え、レースでは果敢に攻める走りが持ち味。若さと勢いで日本長距離界の新たな風を巻き起こす注目株。
合同合宿時のプロランナー3名とペンションオーナー夫婦
合同合宿時のプロランナー3名とペンションオーナー夫婦
―具体的には、どのような点で責任感を感じていますか?

吉田響
『そうですね。やはり、スポンサーや支援者の方々に結果で還元しようという意識が強くなりました。
学生のときも、応援メッセージをもらったりプレゼントをもらったりもしていましたが、今は個人の方からは寄付金をいただき、スポンサーさんからは大きな支援金をいただいています。

このような支援は当たり前のことじゃないですし、自分にとっては大きな力にもなり、一方で責任感も強く感じるところです。みなさんの期待を背負いながら、結果がすべて自分にダイレクトに返ってくるというプレッシャーを、プロになって初めて実感しました。

学生時代は部費で練習できましたが、今はスポンサーや支援者からいただいた大切な資金で活動しているので、1日1日を無駄にできないという責任感が、より強くなっています。
―最近はどんな場面でプロとしてのプレッシャーを感じましたか?

吉田響
『黒部名水マラソンのレースのときですね。大学卒業後の初レースで、自分の得意な距離でしたが、「優勝したい」という気持ちが強く、プレッシャーを感じながら走りました。無事に優勝できたときは、ほっとしましたね。

プロになってからは、個人支援者の方々の応援やスポンサーのご支援があってこそ自分が活動できるので、レースはもちろん、日々の練習や合宿も一層緊張感を持って取り組むようになりました。

プロとしての半年間、吉田響選手は守られた環境を離れ、自己責任で生活する日々を送ってきた。練習のリズムは大学時代と大きく変わらないが、食事の管理や自炊、休息の質まで自分で整える必要があり、その小さな積み重ねが日々の結果につながる重みとなった。

さらに、プロアスリートには、スポンサーや個人支援者からの期待が、強烈なプレッシャーとしてのしかかる。勝てば賞賛があるが、結果はすべて自分に跳ね返る厳しさは、大学生にはそう経験できない。それでも合同合宿で出会うハングリーなプロランナーたちの姿に刺激を受け、細かい所作や練習への取り組み方から学びを得て、責任感や覚悟を力に変えている。

黒部名水ダムでの初レースでは、勝利への強い思いと緊張感が交錯したが、優勝でそのプレッシャーを乗り越えた。こうした経験の積み重ねが、プロランナーとしての自覚と成長を育み『挑戦の先にある景色』を描く原動力になったようだ。

Chapter4
「未来に描く自分―“吉田響本人”が見据える景色」

―最後に今後のお話を聞いていきたいと思います。
今、一番意識されている次のレース・大会はどのような大会でしょうか?

吉田響
11月3日の東日本実業団対抗駅伝です。』

【東日本実業団対抗駅伝競走大会】
毎年恒例の実業団駅伝大会。チームの総合力を競う熱戦が繰り広げられる舞台で、吉田響選手も出場予定。沿道からの応援は選手の力になる貴重な時間です。スピード感あふれる区間ごとの攻防や、最後まで目が離せないゴールまでのドラマをぜひ現地で体感してください。

日時:11月3日(月・祝)
会場:熊谷スポーツ文化公園内(大会公式HP

▼ポイント
・実業団チーム総合力をかけた戦略
・区間ごとの激しい攻防
・公園内周回コースのため応援しやすい

11月3日(月・祝)実業団駅伝で出走予定。大学卒業後初の駅伝レース。
11月3日(月・祝)実業団駅伝で出走予定。大学卒業後初の駅伝レース。
―もう走るイメージはできていますか

吉田響
はい、できています。一度だけ実際のコースも試走に行きました。学生時代のように「いっぱい抜いてやろう」というイメージもあって、モチベーションも高いです。同期も出場する可能性が高いので、楽しみですね。
ただ、少し走りづらそうなコースだなという印象もあります。』
―どういうところに走りづらさを感じましたか?

吉田響
コースには急なカーブや折り返しがあります。それに、レンガやアスファルトなど路面の感触も変わるので、うまく対応できるかはちょっと心配です。』
―コースには何回か練習に行く予定ですか?

吉田響
はい、ある程度は行こうと思っています。世界陸上のマラソンを見ていても、石畳からアスファルトへと路面が変わる場面は、選手たちはどう対応しているのか気になりました。
あとは自分は特にカーブや折り返しが苦手なので、そこは意識しています。』
―折り返しは苦手なんですか?

吉田響
はい(笑)。折り返しではスピードが落ちてから、自分のペースに戻すのに時間がかかります。自分はリズムを大事にしているので、そこが課題ですね。』
―意識している選手はいますか?

吉田響
同じチームでは、サンベルクスの市山選手です。
練習でも意識が高く、一つ一つを丁寧にこだわって取り組んでいて、かなりきつい練習でも表情を変えずにやる姿勢が印象的です。
そういう姿勢は見習いたいですし、自分も負けないようにと思って、切磋琢磨させてもらいながら良い刺激をもらっています。』

※市山 翼
フルマラソン2時間6分00秒、日本歴代9位。2025年の東京マラソンでは日本勢トップの10位でフィニッシュ。スピードと持久力を兼ね備え、サンベルクスチームの勝利に大きく貢献する実力派エースランナー。
―チームから期待されていることはありますか?

吉田響
期待されているというよりも、チームとして昨年より上の順位(昨年は3位)で勝ちたいという強い思いがあります。そのメンバーとして、自分がしっかり走って結果を出し、チームに貢献したいです。』
―11月3日、ファンに見てほしいポイントは?


吉田響
自分の仕事は、1つでも多くの選手を抜いて順位を上げることだと思っています。追い抜いて順位を上げていく姿を、楽しみに見ていただけたら嬉しいです。』



1位でタスキを受け取ったら?

吉田響
『仮に前を走る先輩から1位でタスキを受け取っても、モチベーションには影響ありません。カメラをサンベルクスで独占して、差を広げて首位でつなぎたいと思っています。タイムも意識しますが、今回は順位を意識していて、タイムは自然についてくると思っています。』
―世界陸上を見て、日本人選手の活躍はどう思いましたか?

吉田響
マラソンでは、日本の女子選手が入賞していたのがすごく刺激になりました。男子のレースでは、最後の競り合い以前に先頭から遅れてしまう場面が目立ちましたが、自分が走ることを想像すると、30kmまではスローペースだったので余裕を持って走れるなという感覚がありました。そこから先は熾烈な争いになるんだろうなと思いますが、自分にとっては未知の部分です。

世界陸上のように、日本人選手が海外の選手と走る姿を見ながら、世界と戦うイメージが徐々にリアルになってきています。』

(いつか世界陸上でも吉田響選手の走る姿を見れると期待しています。)

吉田響
はい、ありがとうございます。まずはしっかり練習して、次回のレースに臨みたいと思います。』
―今日は大学時代から現在のプロ生活まで色々伺えました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

吉田響
ファンや支援者の皆さま、日頃から温かいメッセージや応援をいただき、本当にありがとうございます。


ホームページを開設して以来、多くの方が「Team響」のメンバーになってくださり、とても嬉しいですし、とても心強く感じています。

11月3日は、サンベルクスのメンバーとして、自分らしい颯爽とした走りをお見せできるよう、日々練習に励んでいます。


レース後には、初めてのファンミーティングを都内で開催予定で、そちらも今から楽しみにしています。

良い結果をご報告できるよう、今日も全力で練習を頑張ってきます。』

※北海道合宿中の朝練後の休憩時にインタビューを実施

黒部名水マラソンの参加者と一緒に記念撮影
黒部名水マラソンの参加者と一緒に記念撮影
目の前にあるのは、11月3日の東日本実業団対抗駅伝。コースには折り返しや急なカーブ、路面の変化といった難所があり、イメージ通りに走るのは簡単ではない。それでも吉田響選手は、自分の役割をはっきり理解している。順位を上げ、チームに貢献すること。タイムは自然についてくると信じ、冷静にペースを刻むその姿からは、緊張感の中でもブレない判断力とリズム感が伝わってくる。

世界陸上で日本選手が海外の強豪と戦う姿を見ながら、吉田響選手の頭の中には少しずつ「世界で戦う自分」のイメージが浮かぶ。目の前のレースへの集中と、まだ見ぬ舞台への挑戦心が交錯する瞬間だ。責任感と覚悟、そして競技者としての喜びが同時に感じられる。

また、ファンや支援者への感謝も忘れない。「Team響」の存在は大きく、11月3日には自分らしい走りを見せ、その後の初のファンミーティングでメンバーの皆さんと直接会えるのも楽しみにしている。

北海道合宿の朝練後、吉田響選手の目には挑戦の覚悟と未来への希望が光っていた。支えてくれる「Team響」や支援者の存在を胸に刻み、プロランナーとしても、一人の人間としても強さを示す―その姿は、ファンの心に深く刻まれるに違いない。
■レース出場予定
【東日本実業団対抗駅伝競走大会】

●開催日・会場
日時:11月3日(月・祝)
会場:熊谷スポーツ文化公園内大会公式HP

●ポイント
・実業団チーム総合力をかけた戦略
・区間ごとの激しい攻防
・公園内周回コースのため応援しやすい
■ファンミーティング 開催予定
【HIBIKI MEETING 2025】

●開催日・会場
日時:11月8日(土)14:00〜16:00
会場:パシフィックガーデン品川(MAP

●ポイント
・吉田響選手も初のファンミーティング
・選手本人と瀧川コーチのトークセッション
・選手と握手/撮影ができる交流タイム
※Team響メンバーが対象
2025年9月号
なぜ僕は“会社員ランナー”ではなく、

プロランナーを選んだのか《前編/後編》

《前編》ー前回の記事 前回の記事はこちら→



《後編》
現在の記事
〈10月号 予告〉
旅して走る。合宿地や遠征先で出会った景色と人

このレポートは、ファンやスポンサーの皆さんに支えられて発信しています。
日々の走りを支えてくださる方々の存在が、次の一歩を踏み出す大きな力になっています。
「吉田響選手を応援したい」と感じていただけましたら、個人サポーターとして、あるいはスポンサーとして、走りを共に支えていただければ幸いです。
これからも応援していただけるよう、走りと活動を全力でお届けしていきます。

-HIBIKI YOSHIDA Official site-

    

Top