彼が合宿を貴重な環境だと感じるのは、自炊や家事にかかる「1時間のロス」がなくなり、生活のストレスから解放されるためである。この心理的な負担の軽減が、「寝付きの良さ」や「競技への意識の入りやすさ」に直結し、自己を走る行為に完全に集中させるためのスイッチとなっている。
響選手の強靭な精神力は、「きつい」という感情を技術でコントロールする能力に裏打ちされている。彼は、疲労を感じた瞬間に思考を「呼吸」や「脱力」といった技術論に切り替えることで、精神的な焦りを回避する。さらに、疲労に応じて腕振りや重心の度合いを変え、使う筋肉をアジャストする高度なフォーム修正能力は、彼の特筆すべき才能である。これは、誰もが容易にできる「力み」とは対極にあり、トップアスリートや重要なシーンになるほど重要とされる技術、「脱力」を意識的に習得してきた成果だ。
オフタイムの過ごし方にも、独自の哲学が貫かれている。合宿中、響選手は漫画や読書など外側に頼るではなく、自身の内面にフォーカスされ、「睡眠」と「食」という根源的な回復を優先する。特に、「美味しそうなご飯屋さんを見つけること」でテンションが上がるというエピソードは、彼のストイックな競技生活の中に存在する、ささやかな「旅の楽しみ」であり、心のバランスを保つ重要な要素である。自宅で楽しむ漫画や、寝る前のヨガボールとハンディガンを使った徹底的なセルフケアも、質の高い回復を追求する彼のスタイルを象徴している。
これら吉田響選手の合宿生活は「集中」を極限まで高めるための自然のようで戦略的な思考があり、そのパフォーマンスは、「環境」を味方につけ、「感情」を技術で克服する、響選手ならではの洗練されたモチベーション調整術によって支えられているように感じた。