2025年10月号
旅して走る。
合宿地や遠征先で出会った人と景色
旅するように走り、走るように旅する。全国各地の合宿地を巡りながら、自らを磨き続ける吉田響選手。11月3日に開催される東日本実業団対抗駅伝競走大会を目前に控えた10月、トレーニングと調整に励む日々が続いています。今回は、各地での合宿や遠征で印象に残った場所、現地での過ごし方、そして小さな楽しみについて語ってもらいました。“旅して走る”吉田響選手の10月をお届けします。

Chapter1
「今年訪れた合宿地―自分に最適な環境を求めて」

ー初めて走る場所はどんな気分で走ってるんですか?

吉田響
初めての場所はやっぱり楽しいです。初めて行くところだと現地でコース開拓もするので、そのエリアをジョグしながら周りを見ているだけでもワクワクしますし、その中でいろんな発見もあったりして楽しいですね。こっち行ってみようとか、あっち行ってみようとか色々なコースを走ってみて、ちょっとずつ自分が走りやすいところを見つけていく形です。
ーこれまで訪れた合宿地の中で特に印象に残っている場所っていうのはどちらになりますか?

吉田響
それぞれにいいところがあって迷いますね。。。やっぱり今年1番の思い入れの場所は、裾野市での合宿ですね。
2025年8月 裾野市での合宿
2025年8月 裾野市での合宿
ー裾野市の合宿ではどのようなところがよかったですか?

吉田響
ロードもですが山の中でも練習して、細かいアップダウンっていうのが結構あって、アップダウンがあるコースだといろんな筋肉を使うので、走りの底上げっていうのができたと思います。それは自分でも体感しましたし、9月の中旬から末までサンベルクスの合同合宿に参加したんですけど、そのきつい練習にも自分なりに対応ができました。そういった意味でも、前回の裾野はいい合宿になったなと思います。
ー北海道のサンベルクス合同合宿では、どんな手応えを感じましたか?

吉田響
北海道は平らで走りやすいコースが多いので、裾野でしっかり走れたからこそ自信を持ってチームの合同練習も過ごせました。逆にきついのやってたから結構この平置だったら行けるなみたいな、気分的にもしっかりと乗っていましたね。
ー合宿は天候も恵まれてましたね?

吉田響
合宿やってる時は結構もちょうど良かったです。どっちも、標高が高いのもあって涼しいですし、北海道はもう言わずもかな、天候にも恵まれ雨もなく練習できました。
ーどういう場所が走りやすいって感じるんですか?

吉田響
信号ないところです(笑)。山の中はアップダウンがありすぎるところもあって、アップダウンが程よいところが自分は走りやすいです。アップダウンがあまりきつすぎると、四頭筋ていう前ももの筋肉が疲れすぎたり、下りはどうしてもちょっとブレーキかけながら走ってしまって腰回り結構張ってしまうので、程よい程度のアップダウンがいいんです。
ー4月の裾野市での公開練習も急勾配のウッドチップコースを駆け上がってましたけど、取材陣もいたので気合も入ってましたか?

吉田響
いや、あれはいつも通りです。ただ、あのウッドチップコースのトレーニングは相当きつい練習のひとつです(笑)
ー合宿中に滞在する宿の環境も大事ですよね?

吉田響
そうですね。走ってる景色もよかったですけど、裾野は宿もすごい良かったんです。ハミングバードというペンションでお世話になりました。結構山の中にあるので、自然に囲まれた場所で静かに過ごせましたし、特にご飯がすごい美味しかったです。 

合宿って基本、定食で出る形が多いんですけど、初めて合宿でコース料理を食べさせていただきました。 ハミングバードさんの力を入れているところみたいで。 すごいおいしいったですね。
ー特に印象に残ってる料理とかってありますか?

吉田響
ミートパイがすごい美味しかったです。 中にハンバーグが入っててすごい美味しかったですね。夫婦でペンションをされていて、パパの方がシェフって呼ばれたんでパパが料理を作ったんだと思いますけど、食事中は裾野エリアの日常の様子や、これまでの合宿に来た方々のお話だったりしてくださって、とてもフレンドリーな御夫婦でした。
ーお部屋なども快適でした?

吉田響
快適でした(笑)。個室だったんですけど、クーラーがついてなかったんで、山の中なで涼しいんですけど、涼しくて寝れるなっていう日と、蒸し暑かった日もあったりはしましたね。

お風呂も中風呂と外の庭園風呂と2箇所があって、今回は自分と、プロランナーの石部さんと信櫻さんと一緒だったので、お風呂は男女でどっち使おうか相談して、中風呂と庭園風呂を男女が1日交代で使いました。特に
自分は中風呂が広くて好きでしたね。

合宿先では
特に衛生面も気になったりしますけど、綺麗で清潔感があるペンションでした。建物は外装とか内装もすごい綺麗で、1階もソファーがあったりして、オフの時間はすごいラフの時間も過ごしやすかったです。
ヴィラ・ハミングバードでのコース料理
ヴィラ・ハミングバードでのコース料理
ヴィラ・ハミングバード
「ヴィラ・ハミングバード」は、自然に囲まれた静謐な佇まいが印象的な裾野市のペンションです。木々に囲まれた高原の環境の中で、地元の食材を活かした手料理をご提供されており、ランナーが疲れを癒しつつ次の朝に気持ちよくスタートを切れる場所でもあります。
公式HPもぜひご覧ください。🔗 https://fuji-36.com/

石部夏希:
25歳・プロランナー。大学駅伝を経て実業団から独立し、2025年春にプロ転向。2戦目の2025年ふくい桜マラソンで2時間17分25秒(2位)をマークし、一気に注目を集める。堅実な走りと挑戦心を武器に、世界を見据える新星。

信櫻空:
23歳・プロランナー。高校卒業後に実業団(パナソニック)で活躍後、2025年にプロ転向。スピードと持久力を兼ね備え、レースでは果敢に攻める走りが持ち味。若さと勢いで日本長距離界の新たな風を巻き起こす注目株。
ー裾野でのオフタイムの過ごし方は?

吉田響
日常とあまり変えないですし、オフタイムはなるべくリカバリーをしたいので、ストレッチをしたり、寝てたりが多かったです。練習は一緒にやって、合間合間で話したりして裾野の合宿ではそのあたりのオフの時間も楽しく過ごせました。
ー走っている時の景色はどのような雰囲気でしたか?

吉田響
裾野市は自然に囲まれてるので緑も多いですし、走っている時の景色も綺麗で気持ち良いです。途中でキツネがいたり、カモシカが親子2匹でいたりして、ジョグしてる時も結構見かけたりして、普段あまり見ないので珍しくてかわいかったですね。朝は鳥もよく鳴いてました。何の鳥かまで分からないですけど、そういった自然の音も走りながら耳から入ってきますね。空気もすごい澄んでて裾野も北海道もすごい気持ちいいですし、おいしい空気でした。
ー他におすすめの合宿地はありますか?

吉田響
菅平のエリアもすごい走りやすいですね。夏でも気候がすごい安定していて涼しいのと、コースも程よいアップダウンがあるので、ずっと平坦で単調なわけでもなく、アップダウンがすごいありすぎて走れないっていう感じでもないので、じっくり距離を踏めるいい場所だと思います。
ー行ったことない地方ってどっかあるんですか?

吉田響
四国とかないですね、自分人生で一度も行ったことないですね。九州は、合宿で宮崎に行ったことあって合宿でも定番の地域ですからね。12月のニューイヤー駅伝前もベルクスの合宿で行く予定です。四国は香川のうどんや愛媛など瀬戸内の魚介類が人気のようなので、四国の大会とかもいつか出ることがあるかもしれないですし、行けるように祈っておきます(笑)
ー例えば海・山・川などで言うとどこが好きですか?

吉田響
自分が海鮮が好きなんでやっぱ海が見えると嬉しいですね。北海道がそれこそ函館の大沼(北斗市)で、函館のすぐ隣の市だったのですけど、海を見ながら走れてやっぱ気持ちよかったです。大沼湖っていう湖の周りにちょうど良いロードがあって、そこが一周大体13.7km。そこで、練習したんですけどその周りの自然を見ながら走って、その景色も移ろい変わるので、飽きずに走れました。すごい綺麗で写真も撮ったりしました。
大沼湖(北海道)の風景 ※選手本人が撮影
大沼湖(北海道)の風景 ※選手本人が撮影
ー今後は海外に行くこともあるでしょうが、海外では体調管理が大変そうですよね?

吉田響
はい、先輩ランナーが海外の大会で体調を崩されたりしていたので、今はなるべく国内でやりたいです(笑)
ー世界のメジャーなマラソン大会には出てみたいなとは思ってるんですか?

吉田響
出たいですね。 なので海外で走ることも馴染めるように頑張らないといけないですね。 オリンピックはもちろん、ベルリンも見ていると走るのが楽しそうですし、中国人の友達がいて、上海とかのレースもあったりするので、中国は絶対に行ってみたいなって思っています。
ー黒部名水ダムはレースでしたが、現地の雰囲気はどうでしたか?

吉田響
黒部の時は、マラソンイベントでの出場ですごい多くの方が話かけてくれてました。現地の方もそうですし、小中学生とかもいっぱい話しかけてもらって、すごいフレンドリーな感じで、いい子たちが多かったです。レース後に行ったお寿司屋さんも富山湾のお魚がすごいおいしかったです。
ーレース中の声援は聞こえる方ですか?

吉田響
黒部の時のレース中は声援も多くてよく聞こえて嬉しかったです。沿道の声は、最初は余裕あるんで入ってくるんですけど、後半はもう自分の荒い息遣いしか聞こえてこなかったりします。走りに集中しないと自分が死んじゃいそうになるんで(笑)、後半は特に自分に集中していて走ることに精一杯です。』
ーそういった時に滝川コーチの声って入ってくるんですか?

吉田響
入ってきます。やっぱひときわ声がでかいので、自分がきつくて瀧川さんが何言ってるかわかんなくても、あ、滝川さんいるんだなっていうのはすぐ分かるんです。
吉田響選手の競技人生において、「場所」は自己を成長させるための動機であった。大学時代に競技を辞めることすら考えていた彼が、瀧川コーチとの出会いを通じて、未知の可能性を信じてプロの道を選んだように、「旅して走る」という彼のスタイルは、自ら変化を求め、成長する環境を選び取る響選手の哲学そのものである。

特に今年、「一番の思い入れの場所」として挙げた裾野市での合宿は、その後の北海道での合同合宿という次なる試練に立ち向かうための準備期間であった。裾野の「細かいアップダウン」に身を置き、意図的に負荷をかけることで、「走りの底上げ」という確かな手応えを得た。平坦な北海道で「気分的に乗って」練習に臨めたのは、この裾野での挑戦があったからこそである。

また、響選手の強さを支える要素として、競技以外の「人」と「環境」がある。宿の『ハミングバード』でコース料理と温かい夫妻の会話に触れ、非日常の中で心の休息を得る。そして、ジョグ中に動物と出会い、自然の音を聴くことで、純粋に走る喜びを再認識する。これは、ストイックなアスリート生活を送る中、"走ることへの情熱や、誰よりも早くという闘争本能から解放され、心身のバランスを取るための「旅の効能」"だと言える。

駅伝レース本番を目前に、きついレースの終盤でも「滝川コーチの声だけは入ってくる」というエピソードは、彼が信頼できる声と、成長の場を求め、全国を旅して回るその旅路は、すべて「速くなりたい」という純粋な想いに繋がっていることを証明している。吉田響を形作る成長の物語は、これからも新たな場所へと展開していくのだろう。

Chapter2
「合宿中の"響流・モチベーション調整術"

ー練習場所が変わることによって心理的な面とか変わったりしますか?

吉田響
すごい変わりますね。合宿行くと気持ちがすっと入って、自然と寝付きがいつもより良くなったり、自分が普段1人暮らししてる分、そこのご飯の準備だったり、そういう家事の手間がなくなってくるんで、そういうところも含めてそうす集中できるのはすごい貴重に感じてます。』
裾野市合宿中の3選手(石部・吉田・信櫻)
裾野市合宿中の3選手(石部・吉田・信櫻)
ー普段はどのぐらいご飯に時間取られます?

吉田響
30分ぐらいですかね? お風呂入ってる間にお米を炊いて、30分ぐらいで準備して。片付けまで考えたらなんだかんだ 1時間ぐらいはロスしますけど、それが宿に行くと周りがサポートしてくださるんで、その分集中できるっていうところがあります。合宿だとそういう面のありがたみっていうのも改めて感じます。』
ー合宿先でどんな時に気分が上がりますか?

吉田響
自然の綺麗な景色を見た時と、走っている時に美味しそうなご飯屋さんを見つけるのが好きで。おいしそうなご飯屋さんを見るとかなりテンションが上がります(笑)

今年はあまり行かなかったですけど、自分がご飯食べるの大好きなので、合宿ではご飯がちょっと足りないっていう時もあって、捕食がてらに外食に行くってことが多いです。その地域で見つけた定食屋さんだったり、お寿司屋さんにいったりしますね。油っぽいもの食べすぎてしまうと消化に負荷がかかって逆に疲れちゃうんで、ラーメンとかはあまり選ばないですね。ラーメン美味しいんで食べたいんですけどそこは我慢しています。

あと和菓子が好きなので、途中で和菓屋さんとか見つけたりしたら、ああ行きたいなってよく思っています。
ー1人で練習をやってて寂しいなって思った時はどういう風に過ごしてるんですか?

吉田響
いや、思ったことないな。大学時代から滝川さんとやらせてもらってたってのもありますし、走るのは僕1人だったとしても、滝川さんだったりスタッフはいるので、そういったところで不安だったり不満っていうのないですね。もちろんチームメイトがいたら嬉しいですし、楽しいですけど、1人でやるのもまた違った良さがあります。
ー途中でもうあの走るのやめたいなみたいな思うことってあるんですか?

吉田響
いや、それもあまりないですね。きついと思ってしまうと焦って余計にきつくなってしまうので 、一回ちょっと息を大きくして、呼吸を整えたり、きつくなると体が固まってしまうことが多いので、身体を脱力してリラックスすることを意識してます。きついて思ったらもう走れないって気持ちになってしまいそうで、自分の中の意識としてはきついってことを考えずに、力を抜こうとか、呼吸しようとか、そういうことを考えながら走っています。
ー練習などで疲れてきたときなどはどういう工夫をしているんですか

吉田響
疲れてきたら動きやフォームを変えようとか考えることが多いですね。
ーフォームは途中で変える方ですか?

吉田響
自分は結構変えます。 フォームを変えると使う筋肉が全然変わってくるので、使ってない筋肉を使って、今まで使ってた筋肉を休ませたりしています。アップダウンとかにもよるんですけど、登りだったら腕振りを若干気持ち前側で振って重心を前に倒すイメージで足を使って転がるようなイメージにして、逆に下りは幅を広げて後ろに引いてくイメージで走ったりします。

あとは重心も大事にしています。前傾の度合を結構変えますね。やっぱりラストスパートが強い人とかも重心のこの位置の変え方がすごい上手なので、走ってる人の動画とか見て参考にします。

力入れるのは簡単なんだけど、力抜くっていう方は難しいので、脱力はすごい大事ですね。自分も慣れたのも本当にここ最近で、意識して徐々にできるようになってきました。
ー練習の合間の気分転換にはどういうことをされてるんですか?

吉田響
合宿中に空いている時間は基本的に寝るか、やっぱり自分がご飯食べるの好きなんで、その合宿地でしか食べれない特産品だったり食べたりしています。』
ーオフタイムに漫画を読むというアスリートも多いですが、そういうことはありますか?

吉田響
ないですね。 漫画や本を合宿中に読んだりすることはないですね。ただ自宅では漫画を好きでアプリで読んでいます。週刊少年ジャンプやマガジン系が好きで、あとはスポーツ系やバトル系も好きですし、ちょっと心がほっこりするようない感じも好きですね。』
ー最近見た中で面白かった漫画はありますか?

吉田響
スポーツ漫画で"忘却バッテリー"っていう漫画は面白かったですね。 基本ギャグ展開が多いんですけど、試合だったりすごいシリアスなシーンになって、 そのギャップがすごいよかったですね。展開としては王道で読みやすいんですけど、それでもやっぱり面白かったです。
ー合宿の時に普段と違うルーティーンはありますか?

吉田響
普段とそんなに変わらないですね。朝起きて練習してご飯食べて、昼寝してお昼ご飯食べて。合宿のときはちょっと早めに起きて、ストレッチだったりしてから、午後練習してします。練習が終わったら先に入浴して、夜ご飯を食べて寝るという繰り返しです。寝る前にストレッチだったり、セルフケアをしています。
ーセルフケアはどんなことをやるんですか?

吉田響
手でほぐしたり指圧もそうですけど、ハンディガンのマッサージ機を使ったり、ヨガボール使うことが多いですかね。ハンディガンは、足、肩、腕、身体は硬いのですけど背中の届くところにも頑張って当ててます(笑)
ヨガボールは息吐きながら、体重をそのボールに乗っけて、そこに圧をかけてあげると、奥まで筋肉がほぐれるので、意外と手で揉むよりもヨガボールを使った方がほぐれるのでよく使います。
彼が合宿を貴重な環境だと感じるのは、自炊や家事にかかる「1時間のロス」がなくなり、生活のストレスから解放されるためである。この心理的な負担の軽減が、「寝付きの良さ」や「競技への意識の入りやすさ」に直結し、自己を走る行為に完全に集中させるためのスイッチとなっている。

響選手の強靭な精神力は、「きつい」という感情を技術でコントロールする能力に裏打ちされている。彼は、疲労を感じた瞬間に思考を「呼吸」や「脱力」といった技術論に切り替えることで、精神的な焦りを回避する。さらに、疲労に応じて腕振りや重心の度合いを変え、使う筋肉をアジャストする高度なフォーム修正能力は、彼の特筆すべき才能である。これは、誰もが容易にできる「力み」とは対極にあり、トップアスリートや重要なシーンになるほど重要とされる技術、「脱力」を意識的に習得してきた成果だ。

オフタイムの過ごし方にも、独自の哲学が貫かれている。合宿中、響選手は漫画や読書など外側に頼るではなく、自身の内面にフォーカスされ、「睡眠」と「食」という根源的な回復を優先する。特に、「美味しそうなご飯屋さんを見つけること」でテンションが上がるというエピソードは、彼のストイックな競技生活の中に存在する、ささやかな「旅の楽しみ」であり、心のバランスを保つ重要な要素である。自宅で楽しむ漫画や、寝る前のヨガボールとハンディガンを使った徹底的なセルフケアも、質の高い回復を追求する彼のスタイルを象徴している。

これら吉田響選手の合宿生活は「集中」を極限まで高めるための自然のようで戦略的な思考があり、そのパフォーマンスは、「環境」を味方につけ、「感情」を技術で克服する、響選手ならではの洗練されたモチベーション調整術によって支えられているように感じた。

Chapter3
11月3日レース本番に向けて制するための思考

ーいよいよ 11月3日が近づいてきてます。非常にコンディションが良いという風におっしゃっていますけど、どの程度の仕上がり具合をご自身では感じていますか?

吉田響
レースの2週間前という時期ですけど、今のところは"8割,9割"ぐらいまでは、来れてるのかなと。
序盤から首位を走る黒部名水ダムのレース(10km)
序盤から首位を走る黒部名水ダムのレース(10km)
ー残り2週間はどういう風に調整していくんですか?

吉田響
これからの2週間は、徐々に実際のレースに向けての距離の調整であったり、どこを走るかまだ分かりませんけど、特にスピードが求められるので、スピード練習っていうところが多くなってきます。』
ーメンタルとか栄養面のところで調整することはありますか?

吉田響
糖質とタンパク質のバランスをより大事にしてて、脂質はなるべく減らして、糖質増やしてあげて。そういう調整も大事だと思っています。ただ、普段とあんまり変わらないですかね。試合だからって言って特別変えようとすると、逆にその特別ができなくなってしまった時にコンディションが崩れてしまう場合もあると思うんです。だから自分は本当にいつもの延長戦上っていうイメージでなるべく変えない、変わらないっていうところを逆にこだわってます。』
ーレースのイメージトレーニングはされるんですか?

吉田響
コースの特徴っていうのをどれだけ捉えて落とし込めるかって、駅伝にとってすごい大事な要素になりますので、当日のコースを意識しながらイメージトレーニングをしていくことは大事にしていますね。今回のレースでは少し悩んでいますね。』
ーどのようなところで悩んでいますか?

吉田響
これまでの駅伝は道路で一直線でやってきて、その中のアップダウンをどう攻略するかっていうのがすごい大事にしてたんですけど、今回はアップダウンよりも周回コースでカーブが多かったり路面が細かく変わったりするんです。そのコースでどれだけ自分自身が崩れない走りができるかっていうのは大事になってくると思っています。唯一懸念点があるとすればそれくらいですかね。やっぱりカーブが多いとそこで走りを何回も立て直さなきゃいけなくて、そこで体力を持っていかれないかなっていうところはありますね。』
ー大会前なので言えればでいいですが、前半から飛ばしていこうっていうイメージですか?

吉田響
自分は他の選手よりちょっと早いペースで入って、その早いペースをきつくてもずっと押していけるっていうのがストロングポイントなので、今回も早いペースで押していきたいっていう気持ちはあります。』
ー瀧川コーチが言う"吉田響の爆発力"は前よりも上がってそうですか?

吉田響
だいぶ戻ってきましたね。一時期はコンディション不良で少し落ちた感覚だったんですけど、徐々に絶好調の時に"戻ってきた"という感覚です。』
ーこれまで駅伝の世界でやってきて、タスキに特別な想いや価値を感じてたりしますか?

吉田響
マラソンだと1人で走ってて自分との戦いという感じがしますけど、駅伝はタスキを受け取ることによってこのタスキを少しでも次の人につなげたいっていう気持ちが生まれます。なのでタスキを受け取ることによっていつも以上の力を発揮できるっていうのはあると思っていますやっぱりタスキには不思議なパワーを感じます。
響レースの2週間前でコンディションが「8~9割」まで回復したという言葉の裏には、一時期の不調を乗り越えた強い意志の証である。彼は調整において「変えない」というこだわりを持つ。特別なことを求めず、「いつもの延長線上」に最高の状態を見出すという姿勢は、日々のルーティンに対する絶対的な信頼と、プロとしての徹底したリスク管理に基づいている。

今回のレースで響選手が抱える懸念は、カーブが多い周回コースへの適応だ。直線での「アップダウン攻略」を得意とする彼にとって、カーブでの走行の立て直しは体力を奪う要因となる。この課題を克服するため、彼はイメージトレーニングでコースを深く分析し、不安を戦略へと転換しようとするであろう。レース展開では「速いペースで入り、きつくても押し切る」という自己のストロングポイントを追求する。これは、自らの能力に対する確信がなければ成立しない大胆でありながらも計算された戦略である。

そして、駅伝で「いつも以上の力」を発揮する最大の推進力は、「タスキの不思議なパワー」だ。タスキを通して生まれる「次の仲間に良い状態でつなげたい」という責任感こそが、響選手ならではの爆発力を最大限に引き出す、揺るぎないモチベーションとなっている。響選手の「制するための思考」は、意図のある自己管理と大胆なレース展開ができる闘争本能、そしてタスキに込めるチームへの情熱という三位一体の構造によって成り立っている。

Chapter4
響を支えるファンの存在タスキのような不思議なチカラ

ー大会が終わってその週末には初めてのファンミーティングが開催されます。
ファンミーティングに向けてはどんな気分ですか?

吉田響
自分のことを応援してもらってる方と直接交流できるっていうのは、大変嬉しいことですし、こういったイベントという形でファの方たちとお会いするのは初めてで。その中で特に感じていることは、一緒にイベントを作り上げていけるっていうワクワクする気持ちでいます
ー初めてということで、緊張感とか不安とかはないですか?

吉田響
初めてなのでやっぱり緊張感はあります(笑)いや、なんか不思議な感覚ですよね。 自分のために集まってもらうことも嬉しいというかありがたい気持ちですし、自分を応援してくださる方ってどんな方たちなんだろうってのも知りたい気持ちもあります。普段とは違う緊張感を感じてて、慣れてはいくとは思うんですけど、ガラガラだと寂しいので、1人でも多くの方に来ていただけるのを願っています。
ー応援してくださるファンがいなかったら今の競技活動はどうなっていると思いますか?

吉田響
そもそもここまで走れてなかったんじゃないかな。ファンの方たちがいたおかげで、そのファンの方の応援を聞きながらきついところでも踏ん張って走れたっていうのもありますし、沿道の応援があってこそレースでも楽しんで走れたっていうのがあります。学生時代にファンの応援がなかったら、今の競技生活自体を構想できてなかったんじゃないかな、プロ自体になってなかったかもしれないと思います。そのぐらい学生時代からファンの存在は後押しになって大きかったです。
ーファンの力を一番感じる時はレースで走ってる時ですか?

吉田響
走っているときももちろんですし、大会で走り終わった後に声をかけてくださる方もいて”応援してます。頑張ってください!”っていう風に言っていただけた時は、自分も”次も頑張ろう”って思えるのすごい嬉しいです。
ー特に印象的な声かけてくださった言葉はありますか?

吉田響
”色々大変だったと思うけど、何があっても応援してるからね”って言ってもらえた時はすごい嬉しかったですね。あと家族で応援してくださる方も多くて、小さなお子さんが"頑張って〜"って言われたりすると、こっちも”あ、頑張る〜”って返したりします。
ープロ競技人生がこれからも続くと思うんですけど、
ファンの方々と一緒にどんな世界を描いていきたいと考えていますか?

吉田響
今回の駅伝だったり、今後のマラソンで結果を出していって、新しい世界、ワクワクする世界を一緒に見ていきたい、見てほしいっていう気持ちがあります。その先で競技の魅力を伝えたり、ファンの方たちとのイベントであったり、子どもたちのランニング教室だったりも大事だと思っています。自分が走ることでワクワクする方がいて、競技としての楽しさと、純粋に走る楽しさ、その2つの楽しさっていうのを、ファンの方と一緒に見出していけたらいいなと思っています。
ー最後に、11月の駅伝レースとファンミーティング向けてメッセージをお願いします。

吉田響
自分としては、まず11月3 日に東日本実業団駅伝大会があるので、しっかりと結果を出して、ファンの方々に笑顔で胸を張って会えるように頑張っていきたいっていうところです。まずはお申し込みいただいた方、本当にありがとうございます。ファンの皆さまの貴重なお時間いただくので、"最高の1日"にしていけたらなと思っています。遠方から来られる方もいらっしゃると聞いていますから、来てよかったって言っていただけるように僕たちも全力で取りかかっていますので、楽しみにしていてください!
みなさん当日はよろしくお願いします。
彼は、学生時代にファンの応援がなければ「プロ自体になってなかったかもしれない」とまで語る。沿道の声援は、きつい場面で踏ん張る力の源であり、レース後にかけられる「応援してます、頑張ってください」というシンプルな言葉は、「次も頑張ろう」と思わせる心の栄養になっている。特に「何があっても応援してるからね」という言葉は、彼の競技者としての葛藤や背景を理解しようとするファンの存在が、いかに大きな支えになっているかを物語る。

大会が終わった直後の週末に開催される初のファンミーティングを前に、響選手は「不思議な感覚」と「緊張感」を感じているという。これは、応援してくれる人たちの存在を、一人の人間として知りたいという真摯な思いの表れだ。彼の目標は、ただ速く走ることではない。駅伝やマラソンで結果を出し、ファンと一緒に「新しい、ワクワクする世界を見ていきたい」という未来図を描く。この未来図には、競技の魅力を伝えること、そして「走る楽しさ」「体を動かす楽しさ」という二つの純粋な喜びを、ランニング教室やイベントを通じてファンと共有していくという、明確なビジョンが含まれている。

11月3日の駅伝で結果を出し、「ファンの方々に笑顔で胸を張って会う」という彼の最後のメッセージは、チームへの貢献意識(タスキ)とファンへの感謝(応援)が、彼のモチベーションの二大柱であることを示している。吉田響選手にとって、ファンは単なる支援者ではなく、物語を共に創り上げる「仲間」なのだ。吉田響選手の競技人生は、ファンという名の「不思議なタスキ」に支えられている。


このレポートは、ファンやスポンサーの皆さんに支えられて発信しています。
日々の走りを支えてくださる方々の存在が、次の一歩を踏み出す大きな力になっています。
「吉田響選手を応援したい」と感じていただけましたら、個人サポーターとして、あるいはスポンサーとして、走りを共に支えていただければ幸いです。
これからも応援していただけるよう、走りと活動を全力でお届けしていきます。

-HIBIKI YOSHIDA Official site-

    

Top