2026年4月号
プロ2年目の設計図
― 吉田響が整える、走り・生活・心の基準
プロ1年目は、挑戦と発見の連続だった。
その中で得たものを力に変えながら、吉田響はいま、プロ2年目という新たなステージへと進もうとしている。

レースの結果だけでは見えない日々の積み重ねや、支えてくれる人たちへの思いを大切にしながら、走りの質をさらに高めていく姿勢は変わらない。

今回の響ジャーナルでは、1年目で掴んだ手応えをどう次につなげているのか、そして2年目をどんな気持ちで迎えているのかを聞いた。プロとしての歩みが続く中で、いま何を大切にし、どんな景色を見据えているのか。吉田響の現在地に迫る。

Chapter1

プロ2年目の立ち上がりと、今の生活の輪郭
ー 4月からプロ2年目が始まりました。4月1日、最初の練習は何をしましたか?

吉田響
4月1日の練習は20km走でした大阪マラソン後のダメージもあったのですが、トレーナーさんに協力してもらいながら、早く本来の状態に戻せるように、という意識で練習していましたね。4月で本来の良い状態に戻ってきているので、5月からはしっかり練習を積んで、5月23日,24日の黒部名水マラソンのゲストランでも皆さんに元気や勇気を与えられる走りをしたいと思っています。


ー 昨年の4月1日はサンベルクス入社式のサプライズゲストでしたね。今年の4月1日、心境はいかがでしたか?

吉田響
『正直、「もう1年経ったのか」という驚きが一番大きかったです。社会人の1年って、本当にあっという間だなと実感して。1日1日を無駄にしていると、どんどん時間だけが過ぎていってしまう。だからこそ、1日の質を上げていかなきゃいけないなと思いましたし、自分に足りないところは何か、どんなケアやトレーニングが必要かを考えながら過ごすようになりました。


ー 1年前の自分と比べて、何か変わったと感じる部分はありますか?

吉田響
走り方自体は変わっていないんですけど、自分の体の調子が良い時と悪い時の感覚がだいぶわかるようになってきました。これはいい疲労なのか、それともダメージが残りやすい良くない疲れ方なのか。そこの感覚は、この1年を通してかなり磨かれたと思います。』


ー 生活の中で、最近新しく取り入れたことはありますか?

吉田響
ストレッチポールですね。トレーナーさんに教えていただいて、意識的にやるようにしました。体を緊張状態からリラックス状態に戻すことを大事にしていて、回復やリカバリーの質を上げるために、練習前や寝る前に取り入れています。寝やすくなりましたし、走る前にやると腕振りや足の運びがスムーズになる実感があります。


ー もう効果を感じているんですね。逆に、やめたことはありますか?

吉田響
やめたことは…特にないですかね。増えた方が多いです。座禅の時間も増えました。自律神経が乱れてるなと感じる時、頭の中がごちゃごちゃしている時に、マインドリセットのためにやるようにしています。』
1年前、入社式という晴れやかなスタートを切った吉田響が、2年目の春に選んだのは、華やかさよりも地道な積み上げだった。自分の体の感覚を丁寧に観察し、ストレッチポールや座禅など、日々の質を高めるための習慣を一つひとつ加えていく。

印象的だったのは、「走り方は変わっていない」という言葉の後に続いた、「でも、感覚はわかるようになってきた」という一言だ。記録や順位という外側の変化ではなく、自分の内側の変化を静かに積み上げている。1日の質を上げていくという意識が、確実にプロとしての土台を厚くしている。

Chapter2

「10が来ない日に、何をするか」
ー 先ほど、体の調子が良い時と悪い時の感覚がわかるようになってきたとおっしゃっていましたが、具体的にウォーミングアップではどんな違いを感じますか?

吉田響
状態が良い時は、筋肉の伸びが気持ちよかったり、動きづくりをした時に地面からの反発が気持ちよく返ってきたりします。逆に調子が悪い時は、筋肉が硬くなりすぎていて思うような反発が来なかったり、地面を蹴り切れない感覚があります。蹴った時に力が10返って来てほしいところに、5か6しか来ないようなイメージですね。』


ー 調子の良し悪しは、朝の時点でわかりますか?

吉田響
『日によりますね。本当に悪い時は朝起きた瞬間に感じますし、身体を動かしてから初めてわかる時もあります。』


ー 良い状態を再現するのは難しいですか?

吉田響
『難しいですね。調子が悪い時はうまく使いたい筋肉が使えなくなるので、そこをもう一度うまく動かしてあげる作業が必要で、どうしても時間がかかってしまいます。』


ー 調子が悪い時、練習を途中でやめることはありますか?

吉田響
『あまりないですね。明らかに動きが良くない時や、怪我をしてしまいそうな時はやめることもありますが、めったにないです。』


ー 調子が悪い時に状態を上げるルーティンはありますか?

吉田響
『ウォーミングアップの時間をより長くとることと、筋肉が固まっている時はマッサージガンで強めにほぐします。あとはBCAAを走る前に必ず摂取したり、水分補給も水だけでなくスポーツドリンクと交互に飲んで、体のミネラルバランスを整えるようにしています。ストレッチポールも欠かせなくて、肩甲骨周り、股関節周り、足首周りを中心に全身ほぐして、緊張状態をリラックスさせてあげるイメージでやっています。』



ー 普段はどんなスポーツドリンクを飲んでいるんですか?

吉田響
『グリコさんのハイポトニックドリンク(CCDドリンク)です。疲れ溜まっているなと感じる時は、練習後にサプリメントも摂取しています。内臓が疲れている時はグルタミン入りのタイプを飲んだり、筋肉が疲れている時はBCAAのタイプだったり、その日の状態に合わせて使い分けています。』
※ハイポトニックドリンク:低浸透圧に設計しているので、胃から腸への移行が速く、おなかに溜まりにくい粉末ドリンク。


ー 食事面で最近こだわっていることはありますか?

吉田響
『卵ですね。ビタミンもタンパク質も豊富なので、毎日2個から4個ぐらい取ることが多いです。最近は温泉卵メーカーを買って、毎日食べています。実は温泉卵の方が栄養吸収の効率が良くて。白身は熱を通すと吸収率が上がって、黄身は生の方がビタミンが崩れないので、温泉卵がちょうどいいんです。』


ー 魚介類が好きだとおっしゃっていますね。

吉田響
『魚介類はほぼ毎日食べていますね。シンプルなものが好きなので、焼きジャケや焼きサバが多いです。お刺身も好きで、そのまま食べることもありますし、ユッケ風やポキ丼風にアレンジして食べることもあります。お寿司屋さんでは貝が好きで、つぶ貝、赤貝、鳥貝、ホッキ貝をよく頼みますね。』


ー 味噌汁はどんな具材が多いですか?

吉田響
『えのきやネギ、キノコ系が多いですね。なめこ、豆腐、わかめもよく入れます。あとはあさりも好きですし、豚汁やけんちん汁もよく食べますね。具だくさんなものが多いです。』


ー 日頃の入浴で交代浴もされているんですよね?

吉田響
『交代浴はしっかりやっています。あとバスタブには、ファンの方からいただいたバスボムや入浴剤を大事に使わせてもらっています。スポーツタイプやリラックスタイプなど、その時の状態や気分に合わせて使っていますね。』


ー 入浴剤で好きな香りはありますか?

吉田響
『ミルク系や甘い香りが好きですね。リラックスできる香りの方が、自分には合っているみたいです。炭酸系の入浴剤も好きで、疲れた日はよく使っています。』


ー 睡眠で工夫していることはありますか?

吉田響
『1日8時間程度は寝るようにしていて、寝る前はなるべく音がない状態にしています。学生の頃は音楽を聞いたりしていましたが、目をつぶると頭の中で流れちゃうので、逆に目が冴えたりするんです。寝る時にちょっとでも明るいと寝れないタイプなので、遮光カーテンをしっかり閉めて、少しの光も入らないようにしています。雨戸まで閉める時もありますね(笑)。

寝られない日もあったりして、眠りが浅いと途中で目が覚めたりもします。1時間以上寝られない時など特に寝つきが悪い時は、一度起き上がって水を少し飲んでから、また布団に入るようにしたりして工夫しています。

あと最近は座禅の時間を増やしました。天気が悪かったり気圧の変化が激しい時は自律神経が乱れていると感じるんです。そういう頭の中がごちゃごちゃしている時に、マインドリセットのためにやっています。』
コンディション管理という言葉は、アスリートなら誰もが口にする。しかし吉田響の語り口には、その言葉の重さが違う。力が「10」来てほしいところに「5か6しか来ない」という表現に象徴されるように、自分の体の状態を数値化して捉える繊細な感覚。スポーツドリンクの色を使い分け、卵の調理法に栄養吸収の理由を持ち、睡眠環境を光と音の単位で整える。

華やかなレースの裏側にあるのは、こうした地味で丁寧な積み重ねだ。「感覚派」と自称しながら、その感覚を言語化し、再現しようとする姿勢こそが、吉田響を特別たらしめているのかもしれない。

Chapter3

プロとして走る責任と、支えてくれる人たちへの思い
ー 支援してくださる方々の存在を、日々どんな場面で実感しますか?

吉田響
『お手紙を頂くことが多いので、そのお手紙や頂いたものを見た時に実感します。あとは調子が悪い時に思い浮かぶことが多いですね。状態がなかなか上がらない時、気持ちが落ちてしまう部分があるので、そういう時に応援してくださる企業さんやファンの方の顔を思い浮かべて、頑張ろうという気持ちになれます。』


ー ニューイヤー駅伝以降、期待や注目が一気に高まりました。プレッシャーは感じますか?

吉田響
『プレッシャーというよりは、応援していただけることが本当に嬉しいです。プロランナーって注目されてこそ。というところもあるので、その期待を裏切らないように結果を出し続けて、より多くの方に陸上という競技を注目して応援していただけるよう貢献できたらと思っています。』


ー どのような場面で緊張しますか?

吉田響
『ファンミーティングは緊張します。でも、なるようになると思っているので。緊張しているって頭でわかっているから、その状態をちゃんと受け入れてあげて、その中で自分ができることは何かを考えると、割と冷静になれることが多いです。そこの客観視を意識するようにしています。』
ー イベントをこなすたびに、学びがあると感じますか?

吉田響
『感じますね。御殿場プレミアム・アウトレットでのランニングイベントでは、動きづくりを教えるパートで、いろんな年代の方がいらっしゃったので、どの部分をどう伝えるかがすごく難しくて。自分がどうしても感覚派なので、それをうまく言葉にして伝えるというところに課題を感じました。イベントをこなすたびに、ここが至らなかったという修正点が出てくるので、本当に毎回学びです。』


ー その御殿場プレミアム・アウトレットのイベントは好評だったと伺いました。

吉田響
『盛り上がりもしましたし、あのような場所でファンの方々と走ることが新鮮で嬉しかったですね。アディダスさんにも、たくさんの人数が集まって盛り上がったイベントだったと喜んでいただけて、社内でも話題になったと伺いました。御殿場プレミアム・アウトレットにとっても初のランニングイベントだったので、その場に立ち会えたことがすごく嬉しかったです。今年だけでなく来年以降も続けていけたらという形で終われたので、本当に良かったと思っています。』


ー スポンサーの方々との関係で、単なる支援を超えた手応えを感じた場面はありますか?

吉田響
『ファンミーティングの時に、協賛してくださった企業さんのロゴを出したり、景品としてご提供いただいたりして、企業さんのアピールができたことは嬉しかったです。また、地元の企業さんからは、レースで頑張ったねと声をかけていただいて、本当に誇らしい気持ちになりました。応援してくださっている企業さんのためにも、これからも結果で貢献していきたいと思っています。

5月にもスポンサー企業さんを訪問する予定があるので、自分の知名度というツールをうまく使って、協賛してくださっている企業さんに行動で示していけたらと思っています。
また、イベントや発信の中で企業名や商品を自然な形で届けられる機会が増えていることも、プロとしての役割の一つだと感じています。
調子が悪い時ほど、支えてくれる人の顔が浮かぶ。吉田響のその言葉が、印象に残った。好調の時は目の前のレースや練習に集中できる。しかし状態が上がらない時、人は孤独になりやすい。そんな時に、ファンや企業の顔が自然と浮かぶというのは、日頃からその存在を深いところで感じているからこそだろう。

緊張を「受け入れる」という姿勢も、彼らしい。抗うのではなく、まず認める。その上で自分にできることを考える。レースでも、イベントでも、人間関係でも、吉田響は一貫して「客観視」という軸を持って動いている。プロ2年目の春、走りの外側でも、確実に成長している。

Chapter4

「2年目に描く、自分の伸ばし方」
ー プロ2年目のテーマを教えてください。

吉田響
『一つはフルマラソンで2時間3分台を出すこと。もう一つは、自分の走りを通してより多くの人に元気や勇気を与えられるランナーになること。この二つを掲げています。


ー 競技面で、今年一つだけ伸ばしたいところを挙げるとしたら?

吉田響
『スピード強化ですね。ラストスパートが強い選手って、ピッチの回転数が上がるというよりも、自然と動きが大きくなって一歩が伸びてスピードが出ているイメージがあって。自分は回転数が速いタイプなので、スピードが上がればより楽に走れるようになりますし、最後のスピード勝負でも戦えるようになると思っています。』


ー ストライドを伸ばすために、すでに取り組んでいることはありますか?

吉田響
『トレーニングというよりは、可動域を広げることが先決だと思っていて。自分はどうしても体が硬いので、そこが改善されれば自然とストライドも広がってくると思っています。トレーナーさんにも相談して、動きづくりやケアの方法を教えていただきながら、ストレッチを特に意識してやるようにしています。』


ー 今年一番狙いたいことは何ですか?

吉田響
『マラソンでの日本記録、そしてオリンピック出場権(MGCファストパス)の獲得です。チームとしては、ニューイヤー駅伝でサンベルクスを3位以内に押し上げることにも貢献したいと思っています。駅伝が大好きなので、チームのために走れる喜びも大切にしながら、個人としての目標も追いかけていきたいですね。選手のレベルもどんどん上がってくる中で、自分も負けないように準備していきたいと思います。
※MGCファストパス:ロサンゼルスオリンピック日本代表選考において、メダルを狙える最速の日本代表を輩出するために設ける日本代表選考枠のこと。
※[参考MGCファストパス設定記録男子2時間03分59秒以内


ー 最後に、最近大切にしている考え方や言葉を教えてください。

吉田響
『言葉というよりは、いかに平常心を保てるか、ということを意識するようになりました。気持ちが焦ったり、逆に落ちすぎたりした時に、フラットな状態に戻せるかどうかがすごく大事だなと、この春に改めて感じました。座禅や瞑想もそうですし、御殿場に帰った時に自然の中を歩いたり、花の写真を撮ったりする時間を増やしたのも、そういう感覚からです。外側ではなく、自分の内側を整えることを、今は一番大切にしています。』
2時間3分台、オリンピックのファストパス、そしてチームへの貢献。吉田響が口にする目標は、どれも高く、具体的だ。しかしそれ以上に印象的だったのは、インタビューの締めくくりに彼が語った「平常心」という言葉だった。

これだけの目標を持ちながら、彼が今最も意識しているのは、内側を整えることだという。焦らず、落ちすぎず、フラットでいること。それは逃げではなく、高い目標に向かうための、静かな覚悟だ。御殿場の自然の中で撮った花の写真と、世界を狙うランナーという二つの顔が、吉田響という人間の奥行きをつくっている。

こうした内側の積み重ねは、競技結果だけでなく、彼の活動全体の質を高めていく。走り、発信、人との関わり。そのすべてが、応援する側にとっても価値あるものへと変わっていく。

COLUMN

コラム|吉田響の素顔
① 最近、一番疲れた日は?
『大雨が降った日ですね。気圧の変化が激しい時に頭痛が起きやすくて。そういう日はこまめに水分を補給して、早めに寝るようにしています。』
② 4月の自分へのご褒美は?
『久しぶりに行きつけのお寿司屋さんへ行けました。年明けから初めてで、5〜6ヶ月ぶりでしたね。カウンターで職人さんに握っていただいて、ニューイヤー駅伝も見てくださっていたみたいで、「良かったよ」と声をかけていただいて。サインも飾っていただけることになって、すごく嬉しかったです。』
③ 最近ハマっていることは?
『動物カフェですね。最近、近所に豚カフェがあって行ってみました。あとは猫カフェも。御殿場に帰った時は自然の中をウォーキングして、花の写真をたくさん撮りました。そういう時間がすごく大事だなと最近感じています。』
【編集後記】
プロ2年目の春。華やかな結果よりも、静かな積み上げを選んだ吉田響の姿が、今回のインタビューを通して浮かび上がってきた。4月はイベントや取材が重なり、非常に充実した日々を過ごす中で、トラックレースやトレイルランへの出場も視野に入れていた。しかし今は焦らず、トレーニングそのものを最優先に据える道を選んだ。その判断の裏側には、次のレースへ向けて着実に仕上がっていく新たな自分への確かな手応えがあった。

印象的だったのは、どの話題においても、彼の言葉が「外側」ではなく「内側」に向いていたことだ。体の感覚、睡眠の質、食事の精度、心の平静。数字や順位よりも先に、自分という土台を丁寧に整えようとする姿勢が、言葉の端々ににじみ出ていた。

「1日の質を上げていかなきゃいけない」という言葉が、特に胸に残った。トップアスリートがそれを口にする時、それは努力論ではなく、日々の解像度を上げていくという静かな宣言だ。コンディションの感覚を磨き、支えてくれる人への感謝を力に変え、平常心という軸を手放さない。そうして積み上げられた一日一日が、やがてレースという舞台で爆発する。

2時間3分台、オリンピックのファストパス、そしてチームへの貢献。掲げる目標は高い。しかし吉田響は、その目標を「夢」としてではなく、今日の一歩の延長線上にあるものとして語る。その言葉の重さと静けさが、彼の走りと重なって見えた。

そして今回の取材を通して強く感じたのは、吉田響という選手が、競技結果だけで評価される存在ではないということだ。日々の積み重ねや考え方、発信や人との関わり方まで含めて、一つの価値を形成している。だからこそ、その歩みを共にする企業や支援者にとっても、単なる“支援”にとどまらない意味が生まれていくのだろう。

― 響選手への応援・活動支援について ― 
『Hibiki Journal』は、ファンの皆さまからの温かいご支援によって運営・発信されています。
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